『Lanshan 1で行く』あまとみ・信越トレイル 150kmの旅
こんにちは、Hikershop 店主です。
6月上旬に製品のテストを兼ねて、あまとみ・信越トレイルに行ってきました。
あまとみトレイルと信越トレイルは長野県の斑尾山の山頂で接続していて、今回はこの2つのトレイルをつないで、一気に歩いてしまおうという企画です。
あまとみ・信越トレイルとは
あまとみトレイルは、長野駅または斑尾山の山頂を起点とする全長86kmのトレイルです。
2021年に開通した、比較的若いトレイルということもあり、実際に歩いてみての感想は「非常によく考えられているトレイル」というのが率直なところです。
1日で歩ける距離の間に、必ず1度は集落やキャンプ場を通るように設計されており、複数日を歩くことに慣れていないハイカーへの配慮もしっかりされている印象です。
一方の信越トレイルは、斑尾山の山頂または苗場山の山頂を起点とする全長110kmのトレイルです。
こちらは、斑尾山から森宮野原駅まで、ほとんど集落に出ることはなく、トレイルの大部分は森歩きになります。
このため、ハイカーに求められる体力や装備は、信越トレイルの方が若干レベルが高いと言えます。
実際に歩いての感想は、同じく森歩きが続く、滋賀県の高島トレイルに似ていると思いました。
装備について
今回は1週間程度の旅程を想定して、45Lの大容量を持つ 3F UL GEAR Yue をバックパックとしてチョイス。
日本のハイカーで Yue を使っている人はまだまだ少ないですが、フレームありの防水仕様のバックパックです。
独自のサスペンション構造が、バックパックと背中の間の空気の流れを確保してくれるので、夏場の背中の蒸れを解消してくれます。
また、水を数リットルで積んだ状態でも、フレームがしっかりと負荷分散をしてくれるので、肩の部分に重さを感じることは全くありませんでした。
テントは、3F UL GEAR Lanshan 1 Pro を選択。
シングルウォール、メッシュ(蚊帳)つき、トレッキングポール1本で設営可能。
収納袋には入れずに、バックパックのフロントポケットにそのまま入れています。
これは、結露や雨で濡れたテントを、移動中にすぐに取り出して乾かせるようにするためです。
就寝具は、AEGISMAX Twilight を選択。
537g という軽さながら、マイナス5度まで対応するキルト。
6月という時期は、高度1,000m~2,000mの山域ではまだまだ寒いので、多少オーバースペックな就寝具を持っていくのがオススメです。クローズドセルマットはバックパックに外付け。
その他、細々した装備を詰め込んで、ベースウェイトは5.5kgでした。
一昔前は、なにがなんでも 4.5kg を切るようにしていましたが、今ではある程度の快適性を優先して重量増を許容するようにしています。
ウルトラライトに振り切ったハイカー誰しもが経験する、揺り戻しあるあるです(笑)
1日目
まずは、長野駅まで移動するため、京都駅から特急列車のサンダーバード号に乗る。
福井県の敦賀駅で新幹線に乗り換えて、そこからノンストップで一気に長野駅へ。たった3時間で到着。
新しく延伸した北陸新幹線のおかげで、関西のハイカーは信越エリアへのアクセスが格段に良くなりました。
長野駅を起点とした場合の最初のランドマークとなる善光寺。
この門を通って左に曲がると、あまとみトレイルのサインが現れる。
しれっと出てくる、あまとみトレイルのサイン。
しっかり見ていないと、見ずにスルーしてしまいそう。
ここから、今回の150kmの旅が始まる。
しばしの森歩きを経て、集落に出る。
幸い天気もよく、歩いているだけで、楽しい。
鼻歌がとまらない。
あまとみトレイルといえば、この写真のような風景を想像する人も多いはず。
その期待はまったく裏切られず、気持ちのよい森歩きがどこまでも続く。
ますます、鼻歌がとまらない。
そうこうしているうちに、本日のキャンプ地である「長野フォレストヴィレッジ」に到着。
時刻は午後3:30、長野駅を午前11:00に出発したので、わずか4時間半のトレイル歩き。
まぁ、新幹線での移動もあるので、初日はこれくらいに。
チェックインを済ませて、さっそくテントを張る。
池の全体が見渡せる、少し小高い場所を見つけて設営。
平日ということもあってか、他にテントを張っているのは3組だけ。
Lanshan 1 Pro のようなシングルウォールテントは、結露対策が重要。
テント内の空気循環を十分に行わないと、結露で衣類や寝具が濡れることに。
メーカーとしては、トレッキングポールを最長125cmで推奨していますが、オススメはそれよりも5cm長くすること。
そうすると、地面のコンディションにもよるものの、写真のようにテント底面からエアーを十分に取り入れるだけの空間を作れます。
気持ち、テントを少し浮かせるぐらいでセットアップすると、かなり結露を抑えることができます。
個人的に、あまとみトレイルの醍醐味の1つだと思うのが、集落やキャンプ場へのアクセスの良さ。
本来であれば、フリーズドライかラーメンか、となるトレイル上での食事が、なんといきなりゴージャスに。
たいして歩いてもないのに、1日のご褒美とばかりにビールを流し込んで、焼きたてのハンバーグを頂く。
この時点で、あまとみトレイルの完全勝利ではないでしょうか。
食事のあとは、歩いてすぐ近くにある温泉施設へ。
森林を眺めながら入れるお風呂は、良き。
ダメだ、もうここに住みたい。
後ろ髪を引かれる思いでテントに戻って、就寝の準備。
Lanshan 1 Pro は、テント内部に天井1箇所と、入口左右2箇所にループがあり、こうやって細引を張ることでタオルや衣類を中で干すことができる。
今回のトレイルでは、この方法でずっと洗濯後の乾燥をやってました。
明日は朝早くに出発するため、夜7時に就寝。おやすみなさい。
2日目
午前4時に起床。
朝はブラックコーヒーではなく、あえて砂糖が入ったカフェオレを飲むようにしている。
その方が頭や体に糖分が回って、すぐに行動できる状態になりやすい(気がする)。
荷物をまとめて出発。
あまとみトレイルの正規ルートではないが、キャンプ場の近くにある大谷地湿原に入ってみる。
しっかりと整備された木道があり、早朝のハイキングの気分を盛り上げてくれる。
今日も、まちがいなく、いい1日になりそう。
途中から、トレイルは戸隠古道に合流。
こういった、昔からある道を歩かせてくれるのも、あまとみトレイルの「おもてなし」の1つ。
2月に歩いた熊野古道を思い出しながら、てくてく歩く。
戸隠神社宝光社に着く手前で、朝食タイム。
今回のクッカーは、TOAKS LIGHT Titanium 550ml Pot を選択。
550ml の容量だと、フリーズドライを戻す湯量と、スープ一杯の湯量がちょうど1回で沸かせるので、とても重宝している。
蓋付きなので、アルミホイルなどで蓋を自作する必要もなし。これで重さたったの72g。
しばらく進むと、戸隠神社の奥社へと続く門に辿り着く。
正規のルートは、ここで写真の小径に入るが、せっかくなので奥社に立ち寄ってみる。
ちなみに、立ち寄るといっても往復に1時間はかかるので、時間配分は適切に。
小径に入ると、これまた、ザ・あまとみトレイル的な風景が広がる。
特段アップダウンもなく、ただただ、歩いていて心地よい。
ハイキングとは、こうあるべきだという、お手本を見せられているよう。
小径を抜けると、戸隠キャンプ場に着く。
1日目の出発が早いハイカーは、ここまで歩いて初日のキャンプをする人もいる。
なぜか急に現れた、キリンビール。
トレイルミックスが、せめてビールを隣に置いてくれと叫んでいる。
これらのトレイルミックスは自家製で、甘いもの担当と塩っ辛い担当で棲み分けしていて、後者はビールのおつまみとして最適。
トレイルミックスがビールを切望するのも、無理はない。
昼間からビールを飲めるのも、乗り物を運転せずに歩いて移動するハイカーの特権。
休憩を終えて、隣の戸隠牧場に入る。
あくまで私有地を歩かせて頂いているので、牧場にいる生き物たちには干渉しないように。
これだけ遠くから眺めているのに、牛たちには自分の存在がバレている気がする。
忍者としての修行が足らないことを痛感させられる。
見渡す限りずっと牧草地といった場所を歩く。
牧場を通るあたり、アメリカのロングトレイルを彷彿とさせる。
牧場を抜けてしばらく歩くと、本日の宿泊地である氷沢避難小屋に到着。
この日は10時間かけて30kmほど歩いた。
ここで問題発生。
避難小屋の使用はあくまで緊急時のみということだったので、当初の計画では小屋の前の広場にテントを張る予定だった。
しかし、地面が硬すぎて、持ってきた TOAKS Titanium V-Shaped Peg が全く刺さらない。
ということで、テント泊はあきらめて、仕方なく小屋を使用させて頂くことに。
小屋にはすでに先客が1名いらして、聞くと地元の長野で家具職人をされているそう。
筍をとりに山に来られているとのことで、一晩あれこれとお話しさせて頂きました。
とったばかりの筍を使った、郷土料理の「たけのこ汁」までご馳走になってしまい、本当に楽しい夜が過ごせました。
こういう出会いは、登山・ハイキングに花を添えてくれます。
ちなみに、小屋自体はとても綺麗なんですが、季節柄、どうしても虫が小屋に入ってきます。
自分は、パックライナー兼用として持ってきたヴィヴィに入って寝たので大丈夫でしたが、そのまま床で寝られていた先客は夜中に虫にけっこうやられていた様子。
みなさん、ここを使用される時は、全身をカバーできるシーツ、シュラフ、ヴィヴィを持っていきましょう。
3日目
この日も午前4時に起床。
昨夜一緒だった先客にお別れを告げて、出発。
しばらく歩くと、笹ヶ峰ダムに出る。
湖の向こうに見える山には、6月上旬なのに、まだ雪が残っている。
ここが、かなり標高が高い場所であることに改めて気付かされる。
ダムの隣にある笹ヶ峰牧場を通る。
昨日の戸隠牧場と違って、生き物たちとの距離がかなり近い。
おはよう。朝からお騒がせして、ごめんな。
牧場の中にあるグリーンハウスのベンチで、朝食をとる。
いつも通り、フリーズドライとスープでサクっと栄養補給。
この時点で、歩き始めて3時間が経っている。
さて、そろそろ牛さんたちともお別れ。
こういった牧場歩きは、自分は好きだ。
登山では味わえない、水平移動をメインとするトレイル歩きだからこそ見える景色だから。
牧場を抜けて、谷に降りたところで発電所に隣接する吊り橋を渡る。
ここで、遠くの方から人の声が聞こえてくる。
「おーい、京都の人かい?」
なんと、今朝、小屋でお別れした先人だった。
あまとみトレイルの正規ルートではなく、ショートカットして先にここまで来ていたそう。
小屋を先に出発したのは自分だったけど、遠回りして、今ようやく先人に追いついたということか。
なんだかお互い嬉しくなってしまい、その場で地図を広げて、それぞれどいうルートでここまで来たかを話す。
昨夜のお礼を丁寧に伝えて、再度、出発する。
まさに、トレイル上での出会いと別れ。
日本の滝百選の1つ、苗名滝に着く。
写真では伝わりにくいが、とにかくスケールが凄い。
どうやったら、あんなに岩がえぐれるのか。この形になるのに、どれだけの時間がかかったのかを想像してみる。
そして、人間の力や時間なんてものは、地球や宇宙にしてみればミジンコみたいなものだ、といういつものオチに落ち着く。
ここで、ランチタイム。
苗名滝は観光地ということで飲食店があり、小屋で昨日頂いた「たけのこ汁」が美味しかったので、これをもう1度頂くことにした。
昼からレモンサワーが飲めるのは、ハイカーの、、、。(グビッ)
午後もしっかり森歩き。
ここに来て、植生が少し変わったことに気づく。
さすがに出発して3日目ともなると、トレイルの様子もやや様変わりしている。
個人的に、あまとみトレイルを歩くもう1つの楽しみ方が、こういった家々を見ること。
京都の街中で暮らす自分にとっては、こういった煙突付きの「いかにも信越地方」な家を見ると、つい羨ましく思ってしまう。
トレイルの途中には、こういった素敵な家々がたくさんあり、これらを見て歩くだけでも十分に楽しい。
妙高高原ビジターセンターに到着。
同センターは近くの国立公園の拠点施設で、週末ということもあってか沢山の人で賑わう。
センターの隣には大きな池があり、その周りを木道で歩くことができる。
こういった木道の管理・維持には当然お金がかかるわけだが、それをしっかり捻出して運営できているところが凄い。
自然はタダではない、という考え方がないと、こういう活動は続けられない。
本日の宿泊地に到着。
ビジターセンターのすぐ隣にある施設で、ここで食事やテント泊もできる。
場所柄か、お店のスタッフにも、お客さんにも外国人の方がチラホラ。インターナショナルな雰囲気が漂う。
さっそくチェックインして、テントを張らせてもらう。
テントの向こうに見えるのは、標高2,454mの妙高山。
なんとも言えない、絶景。こんな場所にテントを張らせてもらえるなんて、幸せすぎる。
こうなったら、やることは、ただ1つだ。
昼間からビールが飲めるのは、ハイカーの、、、。(グビッ、グビビッ)
この時点で時刻は夕方の4時過ぎ。
もう少し歩けたと思うけど、ここにビールがあるから仕方ない。もういいじゃないか。
そして、この施設の素晴らしいところは、ハイカー向けの炊事場と洗濯機があるところ。
ビールを飲んでいる間に、衣類の洗濯ができてしまうという、天国のような仕組み。
自分は、洗濯をしている間に、近くの温泉施設で入浴まで済ませてしまいました。
この場所は、あまとみトレイルを歩くハイカーの拠点にもなっているようで、自分と逆方向で歩くハイカーと話すことができました。
聞くと、今朝、斑尾山を出発して、夕方にここに着いたとのこと。
少し休憩してから、数時間前に自分が通過した苗名滝あたりまで歩く予定で、夜は適当な場所でビバークするそう。
お互いに、それぞれ通った道の情報交換をして、別れを告げる。
遠くに見える妙高山に想いを馳せながら、この日は夜7時に就寝。
4日目
翌日は朝から雨。
Lanshan 1 Pro は、シーム処理がされていないテントなので、メーカーとしては自分でシーム処理をするように推奨している。
しかし、自分はあえてシーム処理をしない状態で使っている。
シーム処理をしないでも、これまで特に困ったことがないからだ。
この日の朝も、それなりの量の雨に降られたけど、テントの中に雨が染み込んでくることはなかった。
ただし、これは状況によりけりなので、やはり心配な方はしっかりシーム処理をした方が良いと思う。
パッキングを済ませ、出発しようとしたところ、施設の周りを歩いているハイカーを見つけたので声をかけてみる。
実は、昨日からテントを張っているのは知っていたのだけど、ずっとテントの中で休まれているようだったので、声をかけれなかったハイカーだ。
聞くと、自分と同じ方向で、あまとみトレイルを歩いているハイカーだそう。
長距離のハイキング自体が初めてだそうで、見ると確かに装備がほとんど登山用だった。
金属フレームの入った山岳用テントにゴツめの登山靴、これではロード歩きは結構つらかったと思う。
UL(ウルトラライト)という言葉も初めて聞かれたようで、これからUL化に挑戦されるとのこと。
自分は先に出発するけど、またトレイル上のどこかで会いましょう、と挨拶をして別れる。
東海道・中山道・日光街道・甲州街道・奥州街道に次いで発達したと言われる北国街道。
その街道にかつて存在していた関所を再現した場所を通る。
この関所を経て、新潟県から長野県に入る。
この辺りに唯一存在するコンビニに途中で立ち寄る。
ここで、朝ごはん休憩。
時刻は午前8時半ということで、今日も出発後3時間経ってからの朝ごはん。
コンビニでエナジージェルなどを補給できるのが、ありがたい。
昨日話したハイカーから、ここから先は斑尾山を越えるまで、ほんとんど水場がないという情報を得ていたので、水は満タンの2リットルを充填。
これだけの容量の水を背負っても、肩に重みをほとんど感じないのは、フレームありのバックパックの強み。
極端に腰荷重がかかっているようにも感じられず、サスペンションが良い仕事をしてくれている。
さぁ、あまとみトレイルのラスト、斑尾山に向けて出発だ。
途中、野尻湖の周辺を歩く。
野尻湖の西側は、特に外国人の方に多く会い、中にはここに住み着いてしまっている方もいた。
日本人ではやらなさそうな、お洒落な暮らしっぷりを垣間見せて頂く。
ここで飲む、朝のコーヒー、美味しいだろうなぁ。
野尻湖の周辺には、写真のような家々が立ち並ぶ。
現地の方からすれば、ただの日常風景だろうが、自分にとっては羨ましいの一言。
煙突、薪ストーブのある暮らし。憧れるなぁ。
しばらくのロード歩きを経て、いよいよ斑尾山の入り口へ。
ここで、今朝濡れてしまったテントを広げて乾かして、少しでも荷物を軽くする。
斑尾山は標高1,382mで、そこまで高くないものの、あまとみトレイルの中では2番目の高さの山となる。
トレイル4日目にして、ようやく本格的な登山といったところか。
標高を上げてふと振り返ると、先ほど通過した野尻湖が見える。
湖の方から吹く風が、なんとも気持ち良い。
斑尾山のトレイルは、これまでのトレイルとは様子が異なり、いわゆるグリーントンネルの連続。
今朝の雨も手伝ってか、時々、霧に囲まれながら森を通過する。
これは、これで好きだ。
と同時に、明日から始まる信越トレイルが、斑尾山に入った瞬間から徐々に始まっているのだと実感する。
登山口から3時間程度のハイクを経て、山頂に近づく。
これまでのトレイルの景色があまりに良すぎたせいか、あまり景色が変わらない森の中をずっと歩くことにやや退屈さを感じてしまっている自分がいた。
いや、登山とはこういうものだ。
そう自分に言い聞かせながら、4日間のあまとみトレイルがもうすぐ終わってしまうことに、少し寂しさも感じる。
斑尾山の山頂に到着。
特に開けた景色もなく、そこには「信越トレイル①−1」の標識が。
なんだか、スーパーマリオで8−4まで来て、コンティニューが尽きて1−1に戻ってしまったからのような脱力感。
この瞬間をもってして、あまとみトレイルは終了を迎える。
ここで少し遅めのランチ。時刻は午後2時。
この時期は虫の活動も活発なので、持参した蚊取り線香に助けられる。
蚊取り線香がなければ、景色を楽しみながら、ゆっくり食事もできなかっただろう。
虫除けスプレーは皮膚へのダメージが少なからずあり、毎日使うとそれが蓄積することから、できるだけ使わないようにしている。
昼食をとって、気を取り直して信越トレイルをスタートさせる。
山頂を過ぎてすぐに見える、これ。
わかる方にはわかる、信越トレイルを代表する有名なアレです。
ここで写真を撮る方、多いですね。
斑尾山の反対側はスキー場になっており、そのコースに沿って山を下る。
先ほどの3時間の登りコースと違って、こちら側はなんと文化的なことか。
目に入る文化的なものの誘惑に、徐々に負け始める。いや、負けることを望んでいる。
下山したところのリゾートホテルの前で、写真を一枚。
もうこの時点で心は決まっている。
そう僕はここに泊まるのだ。ホテルがここに泊まれと言っている。
本来であれば、この先の赤池キャンプ場まで歩いてテント泊をするつもりだったのだ。
1日くらい、いいじゃないか。ホテルに泊まったって。
頑張って、86kmのあまとみトレイルを全て歩いたんだ。自分にちょっとくらいご褒美させてくれ。
そんな言い訳を100個くらい頭に思い浮かべながら、ホテルに吸い込まれるようにチェックインする。
この日は平日で人が少なかったせいか、通常の料金よりもかなり安い値段で宿をとることができた。
たった4日ぶりとはいえ、文明に囲まれた環境で寝れることに嬉しさを感じてしまう。
自然に癒されながら、文明に嬉しさを感じる人間とは、本当にフシギな生き物だと我ながら思う。
チェックインの際に「お車ですか?」と聞かれて、「いや、歩きです」と言ったところ、スタッフの方にかなり驚かれた。
信越トレイルのスタート地点で、このホテルに泊まるハイカーは多いものの、あまとみトレイルのゴールで泊まるハイカーは少ないようで、自分がJR長野駅から約100kmほど歩いてこのホテルに辿り着いたと添えると、さらに驚かれた。
毎日、お酒飲んでプラプラ歩いてただけなんですけど、ね。
文明を感じざるを得ない風景の1つが、こういったショップの数々。
リゾートホテルということで、館内にはアウトドアギアを扱うショップもあった。
特に補充・交換するギアはないものの、ついつい見てしまう。
あまとみトレイル達成を祝して、麦酒と米酒を頂く。
このホテルは、スタート地点からちょうど100kmあたりに位置していて、これまで歩いた軌跡をアプリで眺めながら一杯、いや二杯頂く。
写真左側の地酒「アルプス吟醸生酒 大雪渓」、なんともフルーティで歩き切った体に米の旨みが染み渡る感じ。
館内の温泉に入って、部屋で衣類を洗濯して、数日ぶりのベッドで寝る。
寝心地を変えてしまうと眠りが浅くなってしまうと思い、ベッドの上にクローズドセルのマットを1度敷いてみるものの、いったい自分は何をやっているのかとふと我に帰り、そのままフカフカのベッドで就寝。
いやぁ、あまとみトレイル、本当に楽しかったなぁ。
5日目
旅としては5日目、信越トレイルとしては実質1日目の朝。
この日はちょっとだけゆっくりして、朝5時に起床。
昨日泊まったホテルとスタッフの皆さんにお礼。いい宿でした、また来ます。
昨日泊まる予定だった、赤池テントサイトに立ち寄る。
利用料金は無料とあるが、自分は事前予約として1,500円の費用を支払っていた。
トレイルの整備費に使われるとのことなので、ここに泊まるかどうかは別としてハイカーは多少なり寄付すると良い。
テントサイトを抜けると、沼の原湿原の木道を通る。
しっかり整備されていて、ちゃんと人の手が入っていることが伺える。
トレイル整備とは、時間とお金がかかるもの。有志のみなさんに感謝。
ホテルでは朝食をとらずに、出発から2時間半ほど経って、トレイル上で朝食をとる。
自分はいつもフリーズドライにマヨネーズを入れて、カロリーブーストをするようにしている。
今回の燃料は全て固形燃料。火力が弱くても TOAKS Titanium Wind Screen があれば、しっかりと風を防いでくれるので数分でお湯が沸く。
途中で開けた場所に出る。
一昨日に、テントサイトから目の前に眺めることができた妙高山が、遠くに見える。
ここでも、自分が移動した距離を実感することができる。
1度やってみたかった、これ。
信越トレイルにありました。
自分は218人目の信越トレイルハイカーだそうです。
ここの他にも、トレイル上にこういったカウンターがあるが、セクションによって全然人数が違うのが面白い。当然ながら、人気のセクションはハイカーが多い。
遠くに飯山市の風景をみながら、森歩きを続ける。
人間の営みを感じながら森歩きができるあたり、冒頭で述べた通り、滋賀県の高島トレイルに似ている。
いつでもエスケープできるという安心感は、ハイカーにとってはありがたい。
かなり急な登り降りを数回繰り返して、こちらも有名なあのハットに辿り着く。
避難小屋というより、アメリカのロングトレイルに存在する「ハット(hut)」という言葉の方が似合いそう。
ここで昼食を頂くとする。
桂池テントサイトに到着。
許容できるテント数は5張ということで、そこまで多くないが、こういったテントサイトが程よい距離感で設置されているのは、ありがたい。
ここでトレイルマジックに遭遇。
自分は飲み水をたっぷり持っていたので頂かなかったが、これを必要とするハイカーにとっては、まさに命の水。
有志のみなさん、本当にありがとうございます。
信越トレイルをこの時点で語ってしまうのはどうかと思いながら、このトレイルを一言で表現するならば「登山の繰り返し」であると思う。
このような登山口の標識を何度も眺めながら、ひたすら山の上り下りを繰り返す。
山好きにはたまらないが、やはり前半のあまとみトレイルと比べると、どうしても景色の変化に乏しいと感じてしまうのは贅沢な悩み。
時刻は夕方4時。本日の宿泊地「戸狩温泉 星降るキャンプ場」のリフトが見える。
スキー場のコースに沿って山を降りると、キャンプ場に辿り着く。
下山して、ハイカー向けのテントサイトを探す。
地図には記載されていないが、信越トレイルの公式HPによると、ドッグランサイトの向こう側が信越トレイルを歩くハイカー向けのテントサイトになっている、らしい。
正直、この場所で合っているかどうかは自信がないが、キャンプ場の一番端っこにテントを建てる。
シーズン前でキャンプ場はまだ営業されておらず、管理棟にも誰もいない。
いわゆる、貸切状態。
夕食をとって、少し時間があったので芝生の上に腰を下ろして飯山市の街並みを眺める。
だんだんと日が落ちて、あたりが暗くなり、人間の世界から獣の世界に切り替わる瞬間。
このマジックアワーの時間帯が、好きな人も多いと思う。自分もそう。
水道水を手ぬぐいに含んで、体を拭いて、夜7時半に就寝。
6日目
翌日は5時に起床。
朝一番のハイクは、昨日下りたゲレンデの道を登り返すところから。
朝日と共に吹く風が、この時間帯はまだ若干冷たく、それが温まった体をほどよく冷やしてくれる。
2時間ほど歩いたところで、朝食タイム。
ここで1つ発見したことがある。
アルファ米をお湯で戻すにはそれなりの時間がかかるけど、お湯を沸かしたあとのアルミ製の風防をアルファ米に巻き付ければ、熱を反射して早く調理できるのでないか。
答えはイエス。
こうやって、アルファ米にぴったりアルミを巻き付ければ、普段よりも早くご飯が食べれる状態になった。
このフードコジーとしての風防の使い方は、メーカーも提唱すべきである。知らんけど。
何度目かのハイカーカウンターのボタンを押す。
アクセスが悪いところ、アップダウンがきついところは、明らかに通過したハイカーの数が少なくて面白い。
みんな正直だ。
ここで、ギアの話を少しやろう。
今回のブログはタイトルにある通り、Lanshan 1 テントがメインだけど、実は一番テストしたかったのはバックパックの Yue である。
ある程度の距離と、それなりの日数を伴う旅程で Yue を使った場合、どうなるのか。これを実体験で知りたかった。
まず、ヒップベルト。
同じメーカーの QiDian と QiDian Pro は、バックルと同じ太さのベルトでヒップベルトで作られているが、Yue は上記の写真の通り、細いベルトを左右それぞれ2本で束ねるようにして作られている。
軽量化という意味でも多少貢献するが、最も効果が大きいのは、通気性。
たったこれだけの変更で、ヒップベルト部分の蒸れを全く感じなくなる。
また上下それぞれのベルトを独立して締め上げることができるので、腰に近い方を若干きつく締めて、お腹に近い方を若干ゆるめる、といった微調整も可能。
これも些細なことだけど、1枚の大きなベルトで腰回り全体を締め上げるよりも、快適性が上がる。
次にショルダー部分。
Yue には、メッシュ形状のホルダが左右2つ、最初から備わっている。
このホルダ、かなり伸縮性があり、ペットボトルを入れてもよし、スマホを入れてもよし。
後付のホルダだと、ペットボトル用のものでは、スマホのような薄くて小さいものを入れた際に、ゆるくてスマホが落ちてしまうことがあるが、Yue 標準のものはスマホを入れても非常にタイトで、歩行中にスマホが落ちることがない。
本当はスマホを入れた状態で、ホルダを撮影したかったけど、スマホのカメラしか持ってこなかったので、残念ながら撮影できず。
人によっては、ここにトレイルミックスのボトルを入れたり、エナジーバーを入れたり、地図を入れるのも良いと思う。
最後に、サスペンション。
ご覧の通り、サスペンションのお陰で背中とバックパックの間には常にエアーが入るようになっており、30度近い真夏の環境下を歩き続けても、背中が蒸れることは無かった。
また、数リットルの水をバックパックの上部に置いても、首よりも上にまで伸びたサスペンションのおかげで、ウォーターキャリーが前後左右に揺れることもなく、しっかりとホールドしてくれた。
この背の高いサスペンションは、バックパック上部に配置した物の重さをフレームを通じて、ちゃんと腰まで荷重を伝えてくれるため、首や肩が痛くなることも無かった。
非常に優秀なシステムだと思う。
ちなみに、この時期にトレイルを歩くハイカーには、ぜひ日傘をオススメしたい。
日焼けを防いでくれるだけでなく、直射日光を浴びることによる体力低下も防いでくれるため。
傘を持ち歩くことの賛否はもちろんあると思うが、自分が愛用している スノーピークの傘 であれば、重さは 150g 程度。
持っていて損はない。
信越トレイルの約1/3地点に位置する関田峠に到着。
この手前の茶屋池ハウスの周辺で、ランチをとる。
と、ここで1つの決断を迫られる。
今回のトレイル旅を計画するにあたり、できるだけオンラインのミーティングなどは旅の期間中に入れないようにしていたものの、どうしても外せない案件が幾つか立て続けに入ってしまったのだ。
この先、このままトレイル歩きを続ければ、間違いなく電波は圏外か、電波が限りなく弱いにエリアに入ってしまう。
山を降りるか、旅を続けるか。
時刻は昼の12時ちょうど。
ここで下山を始めれば、なんとか明日には電波の良い場所に出れる。
山は逃げない、トレイルも逃げない。また戻ってこれる。
そう思い、ここで下山を決める。
関田峠の道は広く、太く、なんとなく「長旅、おつかされん!」と道に言われているようだった。
下山を決めてから、歩きで2時間、最寄りの駅の上境駅に到着。
次の電車の出発まで時間があるようなので、近くの温泉に行くとする。
ここで下山する予定もなければ、ここで温泉に入る予定もなかったけど、いやぁ実にいい湯でした。
なんといっても、露天風呂から見える、山々の景色が素晴らしい。
ずっと入っていられる、そんな温泉。
温泉から上がってから、明日以降に歩く予定だったセクションの地図を広げて眺めてみる。
本当にここで下山して良かったのか。なんとか歩き続けながら、用事を済ますことができたのではないか。
そんな事を何度も考えながら、地図をずーっと見ている。
苗場山の山頂、行ってみたかったなぁ。でも、またいつか行けるはず。きっと。
時間が来たので、温泉施設を出て、再び上境駅に戻る。
ここで、アプリのGPS記録をストップ。
記録によると、乗り物に一切乗らずに徒歩だけで、149.9kmの距離を歩いたらしい。
ということで、今回のあまとみ・信越トレイルは、ここで正式に終了を迎える。
お疲れさま、自分。
まとめ
ギアのテストを兼ねた旅でしたが、純粋にトレイル歩きを楽しむことができました。
前半のあまとみトレイルは、景色の変化に富んで、たくさんの人との出会いがあり、ハイキングの楽しさを再発見させてくれる、そんなトレイル。
後半の信越トレイルは、自然の懐の深さを感じながら、自分と向き合う時間がしっかりとれる、フィジカルにも食べ応えがある、そんなトレイル。
それぞれのトレイルは、全く違う性格を持っており、全く違う思想で作られたトレイルであることも、2本続けて歩くことでハッキリと感じ取ることができました。
残念ながら、信越トレイルは途中で下山することになってしまいましたが、また機会があれば残りのセクションを歩きたいと思います。
最後にギアについて。
今回選んだ主要なギアである、テント、バックパック、キルトの3つについては、全く問題がなかったどころか、想像以上の快適性をもたらしてくれました。
このトレイルでの経験を踏まえて、これらギアを自信を持って提案できるようになると確信しました。
実体験に勝るものはなし。
きっと、みなさんの旅でも、良いお供になってくれるでしょう。